TsunaKamisawaのブログ

小説みたいなものを書きます。

花冠

昔ある国にひとりの王子様がいました。
この王子は大変聡明で心優しく、また武術にも優れたひとでしたが、ひとつだけ困った病を持っていました。
人々は「眠り病の王子様」と彼のことを呼びます。
子供の頃から王子にはどこでもいつでも寝てしまう、そういう変わった持病があるのでした。

有名な医者にみせても薬師を頼んでも、良くなる様子はありません。
会議中にはいきなり机に倒れ伏してしまうし、食事中でもお皿に顔をつっこんでオートミールをぐしゃぐしゃに零してしまいます。

ある日、魔法使いのおばあさんがお城にやって来ました。
彼女は注意深く王子を観察し、色々たずねるなどしたあとで、「王子の頭の奥に眠りの妖精が住み着いてるようなものだから、これは仕方ないねえ」と言いました。

「まあ、寝てるも起きてるもそんなに変わりはないさ。あまり気にしないようにすることだね」

家族や家臣たちはおばあさんの言葉になんとなく納得したので、それ以来「あまり気にしない」ようにしました。
注意したのは強いていえば、せめて王子が起きた時に気分の良いようにと城じゅうに花を飾るようにするくらいでした。---このため、民たちは花のお城と呼んで、城下にも花売りがたくさんいるようになったのですよーーー

さて、王子には婚約者がおりました。
となりの国のお姫様で、笑顔の可愛らしい優しい女の子です。
二人は大変仲睦まじく、姫は王子の病もそれほど気にすることなく過ごしていました。
彼が眠ってしまっても、姫は何も言わずに本を読んだり刺繍をしたりして過ごすのでした。

ある日、二人は森の近くの丘にピクニックに行きました。
雲ひとつない良い天気で、心地よい風が吹いています。

「ご覧になって、シロツメクサがこんなにいっぱい」
二人は丘の上に座り、姫の持ってきたお茶を飲んだり、草むらからたまに頭を覗かせる野うさぎを愛でたりと、楽しい時を過ごしました。

王子に花冠を編んで差し上げましょう、とお姫様は思いました。きっと彼のふわふわした栗色の髪に良く似合うはずです。
彼女は形のよいシロツメクサを探して摘んでくると、白い指を器用に滑らせて小さな王冠を作り始めました。

王子はしばらくニコニコとその様子を見ていましたが、ある時ふと妖精のいたずらの気配を感じ、静かに眠り込んでしまいました。

「できたわ。ねえあなたーーー」
お姫様は小さな花冠を両手に捧げ持って、王子の方を振り向きました。

王子はすっかり眠ってしまっています。ああ、また妖精の仕業ね、とお姫様は思い、花冠を膝に乗せて空を眺めました。

ピィピィと鳴きながら小鳥が飛んで行きます。 丘の上は相変わらず穏やかで、少し離れた場所に停めた馬車や従者も呼ばなければやっては来ません。

ふいに、お姫様の目から大粒の涙が転がり落ちました。
どうしてでしょう。胸が痛く、ひどく悲しいのです。
なぜ自分が泣いているのか姫は涙を零しながら考えました。
こんなにも良いお天気なのに、隣の愛しい人とそれを語り合う事ができないのが悲しい。目覚めていたならきっと私の作った花冠を褒めて下さったに違いないのに……。
体は隣にあっても、いま王子は遠く遠くにいるのです。これが悲しくなくてなんでしょう。本当に寂しい事だとお姫様は思いました。

姫がしくしく泣いていると、森からゆっくりと小さな人影がやってきました。
魔法使いのおばあさんです。
「おやおや」とおばあさんは言って傍に来ると、節くれだった指でお姫様の頬の涙を拭ってやりました。
「もうすぐ起きるから、そんなに泣きなさんな」
お姫様はこくんと頷きました。

その日、お姫様が自分のお城へ帰った後に王子は目覚めました。
ずいぶん長いこと眠ってしまったなぁ、と王子は思い、姫に申し訳ない気持ちになりました。
ふと見ると、枕元に美しい花冠が置いてあります。
「これはあの人が作ったのだね」
少ししおれかけてはいますが、丁寧に編まれた花冠は十分可愛らしいものでした。

彼はお礼の品を考えました。 実は王子様は銀細工を作るのが大変上手いのです。
それから少しして、王子様はシロツメクサの小さなブローチを作ってお姫様に贈りました。

銀のブローチはしおれることなく、いつまでもお姫様の宝箱できらきらと輝き続けたそうです。

石にあらず

「お腹にいるの」
「いるんよ。よくわからんけど」
実際よくわからなかったのでそう答えたが、佐藤くんは綺麗な黒目で私をじっと見て、「すごいなあ」と言った。
すごいのだろうか。しかし言われてみると、人体の中に人体ができるという事は確かにすごい事のように思われてきた。
「すごいかもしれない」私は呟いた。
「どうするの?」と佐藤くんは普段通りの静かな口調で訊ねた。
「堕ろすよ。難しすぎる」と私は言った。逡巡の欠片も無く。
もう考えたのだ。昨日、一日中考えて、最適解はそれしか無いなと思ったのだ。
私は経済的に余裕がある訳でも無かったし、佐藤くんもそうだった。たかが「うっかり」ピルを飲み忘れたくらいで「うっかり」できてしまった小さな人体を育てるなんて、想像もつかない。なんで私がそんな事を?と不思議に思う瞬間まであった。
「そう……」と佐藤くんは言って、やはり綺麗な黒目で「そうなの」と言い直した。
「育てたい?産んだ方がいい?」
「わからない……」よく、わからない、と佐藤くんは首をかしげた。

家に帰って荷物を降ろすと、どっと疲れが出て布団に倒れ伏した。携帯を見ると、佐藤くんから「考えてるんですが」「僕はちょっと会ってみたい気がします」「赤ちゃんに」と三つラインが来ていた。
私は特に返信も返さず、睡眠導入剤を飲んでからきちんと布団に入り直した。
今日は早めに寝付けるといいなと思った。堕ろす日をいつにしようか算段しながら。

今朝は夢に母が出てきた。鴨のような、小さな鳥の姿をしていた。
「お母さん、お母さんはどうして私を産んだの。お母さんは鳥さんなのに」
そう言うと、母は驚いたような顔をして、まごまごしながら、
「あんたは待ってくれへんかったやないの」 と言った。
そうか、私は待たなかったなと思い出し、申し訳なくなって「ごめん」と謝った。
鳥の姿の母は更にまごまごし、もどかしそうに首を数回左右に振ってから、どこかへ飛び去って行った。
バササ、という羽の音と、自分だけが残された。

起きて湯を沸かし、コーヒーをいれる。 少し泣いたらしく、目が開きにくかった。
なぜ泣いたのかわからない。わからないまま顔を洗い、朝食にトーストを焼き、化粧をし、電車に乗って出社した。
仕事は座り仕事で、8時間程度ずっとパソコンを眺めていなければならない。肩こりがひどいなと思った。なんでこんな事をしているのか。生きるために、そう考えているとバカバカしくなってきた。あれこれ忙しく指示をとばす上司、同僚と話し込む者、オフィスを行き交う人々の喧騒。しかし、誰もここに二人の人間、……人間と、人間にならんとしている人間の二人が座っている事に気付かない。
そう思うと少し愉快になった。小さな手に、おもちゃのアクセサリーを握りしめている子供のように。

どうしよう、どうしたらええの。という声と、もう堕ろすよ、それでええね?という声のふたつが聞こえた。

昼休憩の時に、私は佐藤くんのラインに返事を入れた。
「会ってどうするの」
返事はすぐ来た。
「喋ってみたいです」

少しの間、目の前が真っ暗になる。どうしよう、この人は純粋に希望を見出してしまっている!この単なる異物に!

佐藤くんについて少し説明しよう。佐藤くんは佐藤幸哉といい、私が今付き合っている人だ。八個年下で、すごく痩せている。大学院生だ。哲学の何かをやっている。「年上なので」という理由で私に対して敬語を崩さない。笑った顔が可愛い。よく働く。バイトを掛け持ちしていて、しょっちゅうバイトのどれかを辞めている。「手順を覚えるのが楽しい。覚えるとつまらないから辞める」らしい。私の友達の評はといえば、軒並み「だいぶ変わっとる男やね」。 おぼえは佐藤くんしかないので、突如として発生したこの異物の父親という事になる。

とぼとぼ家に帰る。家に帰ると猫がいる。
ノンちゃんという白猫を飼っている。みゃーんと鳴いて足に擦り寄ってくるノンちゃんを抱き上げて、頬に顔をうずめると、なんだか甘いような獣の香ばしい匂いがした。
ノンちゃん、ノンちゃんはどこでどんなお母さんから産まれたの。何匹きょうだいだったの。 ノンちゃんは何も言わない。
雨の日に、厚手の紙袋に入れられていたのを拾って来たから、なにもわからない。

鼻の近くに指先を差し出すと、ノンちゃんはスンスンと匂ってから自分の鼻を舐めた。
夕飯をやり、ノンちゃんは偉いね、ノンちゃんは生きていて偉いね、と語りかける。
私はノンちゃんに了解を得ずに彼女に避妊手術を受けさせてしまったが、彼女は何も言わない。彼女は人間語が話せないし、私は猫語がわからないから、そういう事になっている。
彼女が猫だからといって、どうして躊躇いなくそういう事ができたのか、私はたまによく考える。そしてしばしば、それは自分がそうしたかったからなのだという考えに至る。

私は自分が子供を産んだり育てたりするなんて真っ平御免だし、なんなら自分も犬猫のように避妊手術を受けたいと思って生きてきた。人間だから妊娠の可能性を視野に入れて子宮を大事に、なんておかしな話だ。受けておけば、不正出血を気にして毎日決まった時間にピルを飲んだり、こんな事にはならなかった、こんな、めんどくさい事には。

夕食に満足したノンちゃんは、暖房のそばでゴロンと横になって見せた。猫の口角はいつでも上がっているので、微笑みに見えてしまう。 ノンちゃん。みゃーん。
子供がもう一匹、猫だったら育てられたのに、人間じゃなく、可愛い動物だったら、きっとそうしたのに、と、柔らかい猫の肉球を触りながら思う。

預金残高を確認し、堕胎手術の予約を取り、休みの手続きもした。もう二度と無いようにしよう、こんな煩わしい事は。
夢にまた母が出てきた。これはもしかしたら夢ではないのかもしれない。自分が見ようとして見ている妄想なのかもしれない。
母は今度は白鳥のような大きな鳥になって座っていた。
「お前はとても難しい子供だった」と母が言うので、私の手は勝手に石を投げた。石は白鳥の母の頭に当たって、母は頭から血を流してぐったりと地面にへたばった。
「お母さん、どうして私を産んだの」
「難しいならどうして私を産んだの」
と、聞くも、母はもう動かない。母の白い腹の下からわあっと蟻の大群が出てきて私の腕を登る。その感触が、すごく気持ち悪いなと思う。 蟻の一匹が耳元にやってきて、私に教えてくれる。
「お前が」
「私に」
「会いたいと」
「言ったから」
白鳥の母は蟻の言葉でそう言うのだった。
言うだけ言って、蟻はゴミのようにくちゃっとなって体を滑り落ちて行った。そこで目が覚めた。
何が本当かわからなくなった。

休日の昼下がりに、ずっと私は幻影を見ている。
「私そんな事言っとらんよ」
「言った。お前はお母さんに会ってみたいと言った。それでわかったと私は言ってお前を産んだ。出てきたお前はほんまに可愛かったんよ」
なぜそんな事を言うのだろう。責められてるみたいだ。すごく、罪悪感を抱かされる。
本人に悪気はないのだ。本気でそう懐かしんで言っているのだ。不愉快だが、仕方ない。なにしろ鳥だし。
でも私は知っている。母は私を身ごもった時、中絶についての本を買ったのだ。母の遺品を整理した時、何冊も古い本が出てきた。
嘘を吐くな。私は母の戸惑いと逡巡の跡を知っている。母の欺瞞を知っている。

ふいに怒りがわいてきた。マグマのように噴出する、脳髄を焼く怒り。一体この怒りをどこにぶつけたらいいのかわからない。

お前か、この腹の中にいるお前が母にそんな事を言わせているのか、母を鳥の姿にして。
私の気の緩みによって偶然、事故のようにわきおこった産物。こいつは一体なんなんだ。
孕まれたものは何も言わない。
矛先を見つけた怒りは、大喜びしてお腹の赤ん坊を責め立てた。
お前はエコーにシミみたいに白くうっすら残って、それだけで私に殺される、ざまあみろ、私はなんだってできる。私を殺そうとした母の事などもう思い出さない、私に対して要るか要らないか測った母親を殺す代わりにお前をぶち殺してやる。

「僕は会ってみたいですが、由奈さんの負担を軽くする事を最優先にしたいです」「由奈さんが元気ならそれで」
佐藤くんは歩きながら考え考え、そう言うのだった。
二人で湖畔を歩いている。
佐藤くんは長身なので、私を気づかって歩幅を狭くして歩いてくれる。
こんなに彼を困らせて、自分は何がしたいのだろう。そもそもなぜ、妊娠した事を彼に知らせてしまったのか、自分がわからない。
「散歩をしましょう」
と佐藤くんからラインが来たので、湖の近くを二人で並んでてくてく歩いている。
繋いでいる佐藤くんの手は温かかった。この人の手はいつも温かい、と思ったが、私の手がいつも冷たいだけなのかもしれなかった。
黙って二人でずっと歩いた。
歩くことに集中した。普段あまり動かないので、私はすぐに息切れを起こしたが、それでも構わず歩いた。湖のほとりを。
湖は陽の光を受けてキラキラとしていた。トンビが数匹、優雅に風を切って飛んで行った。 それで私は母の事を思い出し、
「この頃、お母さんが化けて出てくる」と佐藤くんに言った。
「ほう」
「鳥になって出てくる。色々言うてくるけど、何言うてるのかようわからん」
「それは良くないですね」と、佐藤くんは言った。
どうして、と訊ねると「何言ってるのかわからないと、何言ってるかわかんないからです」と返ってきた。
「鳥はね」、「鳥はこう、ゆっくり左右から包む感じで持つんです」「すると暴れない」と、両手で小さな柔らかいものを持つジェスチャーをする。「バイトで友達の鶏の世話をしたんです」と言う。
「由奈さんのお母さんには、巣へお帰りって言ったら良いですよ」
わかった、と私は言った。佐藤くんが言うなら、それが正しいのだろうと思った。彼はそういう、不思議な説得力のある言葉使いをする。
「鶏……」
「はい」
「鶏、タマゴ産んだ?」
「産んでましたね」
「いっぱい?」
いっぱい産んでました。と、佐藤くんは温厚そのものの声で言った。
「お腹の羽がふわふわで、タマゴ隠れちゃうんですけど、立ち上がると綺麗な形のタマゴが並んでるんです。可愛いです。それも友達が頑張って孵化させてました」
佐藤くんは動物好きだ。友達にも動物好きが多いらしかった。
私はふわふわの鶏のお腹を想像して、触ってみたいと思った。

「寒うないですか」
「うん。大丈夫」
湖畔には釣り人や、犬を散歩させてる人や、家族連れなど色んな人間がいた。前方から来る母親とおぼしき女性と、手を引かれる小さな女の子をまじまじと見てしまっている自分に気づいて、その行動の余りの陳腐さにうんざりする。勘弁してくれ、と思う。女の子は楽しげにスキップしながら私たちとすれ違って行く。
女の子の影が私の視界から消えようという瞬間、私は気づいた。私も会ってみたいと思っていたのだ。この、隣にいる人と私のミックスの存在に。
それは脳がスパークするような気分だった。 私の脳は私の脳がひっそり握っていた秘密を知っている。
それは可能性への希望だった。この男の人、自転車を漕ぐのが上手くて、私に嘘を吐いた事の無い朴訥な人のDNAさえあれば、全てが変わるのではないか。例えそこに大嫌いな私のDNAが混じっていたとしても、新たな存在を愛せるのではないかと、自分はそう思っていた。だから「うっかり」したのだ。まあいいか、と、ピルを飲まずに眠ってしまったのだ。すっかり安心して。
それは陳腐極まりない考えだ。人間が繰り返してきた、安易で儚い予測に過ぎなかった。なぜ私ともあろう者がそんなものをいだいてしまったのだろう。私は私の脳と精神を過信していた。
私は急に泣き出した。
「えっ、えっ、どうしたの。大丈夫?」
佐藤くんはこちらが面白くなるくらいわかりやすく狼狽し、よろけながら自分のリュックサックからぐちゃぐちゃになったティッシュを探し出した。
「大丈夫。ありがとう」
気にしないで、と言って私はティッシュを受け取って涙を拭いた。ティッシュの外側には古紙回収の宣伝が書いてあった。
「本当に、気にしないで。ただの情緒不安定だから」
でも、でも……と佐藤くんはまだ狼狽しながら私の返したティッシュをぞんざいに握って更にぐちゃぐちゃにしていた。
その様子がおかしくて、私は笑ってしまった。泣いたり笑ったり、まったく気持ちの悪い女だと思う。
「お腹すいた。ごはんいこ」と言うと、佐藤くんはものすごい八の字の眉毛をしたまま頷いた。

その日、私は佐藤くんに気づかわれ続けた。 「僕も一緒に病院行きます」「本当に産まなくて大丈夫ですか?」「僕、どうしたらいいですか。ほんとにわからなくて」
なにもしなくていい、責任なんて考えなくていいからと私は伝えた。
佐藤くんはきっと帰ってからも私を気づかい続けるのだろうと思って申し訳なくなった。
私は自分が情けなくて泣いただけなのに。本当にくだらない理由で、泣いてしまっただけなのに。
「ねえ、どうして喋ってみたいの」と私は佐藤くんに聞いた。
「それはですね、面白い事を考えていそうだからです」佐藤くんは、教師に質問された生徒のように生真面目に答えた。
「由奈さんも面白い事言うし、僕は小さい人をあまり見たことがないので……、小さい人は、とても面白いと聞きます」「なんというか、とにかく他人とは、会ってみないとわからないので……」すまなさそうな顔をして彼は述べるのだった。
まあそれはそうかもしれない、と思う。
生前の母も同じようなニュアンスのことを言っていたなと思い出す。
お母さん、お母さんはどうして結局私を産んだの。
「そんなの」
そんなの、産んでみないとわからなかったから……かなあ……、と、母は首を傾げて考えていた。
それは私が中学生くらいの時だった。母は生まれつき身体が弱く、祖母や祖父に心配されて生きてきた。子供も産めないだろうといわれていたが、父と結婚し、離婚の直前に私を妊娠した。母は苦労して私を育てた。元々お嬢様で、ぶきっちょな人だったから、それはもう苦労した、と祖母が言っていた。私にあたる事もそこそこ多かった。私が大学生の時、ある日母は急に脳溢血で倒れ、冗談みたいな早さで死んだ。昨日までボリボリとおかきを食べていたくせに、今や死体になっている母。
死ぬ時までマイペースぶりを発揮した母に、私は病室で感心してしまって泣くどころではなかった。
産んでみないとわからなかったから、と言われて、この人は頭が悪いのだろうか?と中学生の私は思った。今現在も思っている。今現在も思っているが、中学生の頃より今の方がまだ母の気持ちが解るような気がして、頭を抱えた。

布団に入って、いつも通り睡眠導入剤が効くのを待っていると、ノンちゃんが入りたそうに側に寄ってきて、私の額の匂いを嗅いだ。
「おはいり」
と言って布団を開けてやると、ノンちゃんは毛布とシーツの間にすっぽり入って、慣れた動作で私の二の腕を枕にした。
ふわふわの白猫。ノンちゃんはたぶん世界一すてきな生き物だ。
佐藤くんは?彼も同率一位くらい良い生き物だけど、ノンちゃんは別格だなあ。
猫のゴロゴロ音を聴きながら、明日には居なくなる子供の事を思う。縁がなかったのだ。まだ、今の私には。今は、まだ。

ノンちゃんがもし子猫を産んだら、と想像する。ノンちゃんのおっぱいに一生懸命しがみつく子猫たち、やはり微笑みをたたえたような顔でゴロゴロ言って寝そべっているノンちゃん。きっと、彼女に似たちっちゃな白猫が何匹か混じっている。しかしその光景を実際に見ることは無い。なぜなら私がその可能性を摘んだからだ。ノンちゃんがうんと言った訳でもないのに、私はノンちゃんから未来永劫その光景を奪ってしまった。
猫は温かく、私はノンちゃんを寝返りで潰さないように気をつけながら、うとうとと眠りに落ちていった。

眠ると、また母が出てきた。やはり鳥だ。今日はなんの鳥?大きな白黒の変な鳥。
「なにそれ、鶴?鷺?」と、一瞬思って、その姿がコウノトリである事に気づき、崖を覗き込んだ時のようにゾッとした。今度は何をするつもりだてめえ!
「巣へ、おかえり」
私はほぼ叫ぶようにして母に言った。
コウノトリの姿の母は、淡いクリーム色の身体を優雅に揺らしながら小さな瞳で私を見ている。
「また、こんど連れてくるね」
いつのまにか母と私の間の地面には、布に包まれた何か柔らかいものがあった。
ノンちゃん?と思うが、ノンちゃんはあんなに小さくないし、あんな変な、モゾモゾした動き方はしない。
コウノトリの母はその白い布に優しく包まれた何かをそっと嘴で持ち上げて、飛び立とうとした。待って、それは私の、私の赤ん坊、勝手に持っていくな、このクソ鳥が!
「言う事が勝手やねえ」と笑われて、もう全てが嫌になった。ああそうだよ、勝手だよ。もう勝手にしろ。持っていけ。どうせこの一連の流れも、自分が、自分の脳が生み出した、なんらかの言い訳。どうせ夢……と考えて、あっ、と思いついた。
「ちょっと、お腹触らして」
と、頼んでみると、コウノトリは体を少し傾けるようにして差し出してきた。そっと指先で触れてみる。背中はやや硬そうに見えたが、お腹はふっくらとして、細かい白い羽毛が柔らかく連なっていた。暖かい。そのお腹に包まれたタマゴを想像して私はすっかり満足した。
いいよ、連れてって。でもまた返しに来てね。それは私のだから。私だから。私の希みだから。
コウノトリは長い首で頷いて、荷物を掴み、ゆっくり飛び立って行った。
優雅な滑空。
彼女らがどこに行くのか私は知らない。良いところだといいなと思う。生まれたくなかった私は、生まれたお陰で他人の幸せをこうして願う事ができる。それは皮肉だった。どうして生まれたのかわからない、手のかかる子供だと言われて生きてきた。本当にそうだと思う。どうしてどうしてと考え続けて、私は今の私に成った。石女だと思われた母が、ふいに私を孕み、産んで、石女ではない私の母になったように、何か不思議な磁力で以て世界は動いていた。どれもこれも、偶然の事とは思えなくなった。今見ているこの夢すら、何者かが設計したものの一部のような気がした。
じりり、じりりと地面が動き出す。寒くて、私は早くノンちゃんのいる世界に帰りたかった。早くあのひとりの部屋に戻って、暖房を調節しなくては、と思った。
青い湖の上を飛んで、小さくなってゆく母。滑り台に乗せられたかのように、じりりと滑り落ちゆく私の体。落下していく、その最中に私は色んな事を思い出していた。友達から来た年賀状、そこには幸せそうな赤ん坊の写真がプリントされていて「子供がうまれました。よろしくね」などと書いてあった。なにをよろしくすればよいのか。さっぱりわからない。気持ちが悪い。私は怖気をふるって、その年賀状を破って捨てた。異物を幸せとして迎え入れる人間の気持ちが全く理解できなくて嫌悪感を抱いた。
私など自分の存在すら肯定できないのに、子供を持つ人間の気持ちがわからない。コウノトリが運んできましたという白々しいそぶりで子供をつくる神経がわからない。
それは自分の母への軽蔑でもあった。産んでおいて、めんどくさいめんどくさいと言っていた女。めんどくさいなら産まなきゃいいのに、「産んでみないとわからなかったから」などと言い訳する女。
それは今も同じで、ああはなりたくないと、私は子供を持とうとする人種を見下してまでいた。見下していないとやっていられなかった。
ただ、佐藤くんと歩いていたあの瞬間、手を繋いであったかいなと思っていた瞬間、小さい女の子とすれ違った瞬間、私は私の期待に気づいてしまった。
私も見下されるべき、愚かな思考を持って生きている事に。「この人と私の子供はどんな人間だろう」と想像する瞬間が本当はこれまで幾度もあった事に。まだここに居ない誰かが、私達の間に誕生して、何かを変えてくれる事に、私を救ってくれる事に、どうしようもなく期待してしまった。子供は神ではないのに。その瞬間の私は、もうそれは「母親」という存在に限りなく近かった。
人間の女が無限に見てきた、愚かで可愛らしい夢を、私もずっと見ていたのだと気づいてしまった。
しかし、まだ私は希望を誰かに託してはならない、と思った。まだ私は子供に全てを託すようなちゃんとした残忍な大人にはなれていない。子供が子供を産んではならない。なぜなら、育てられないから。自分すら育てきれていないのに、育てきれていないからといって「次」を持つのはおかしい。それは卑怯というものではないのか?もっと自分自身で足掻いてみるという選択肢はないのか?
子供への誠意のために、私は産むべきではないと思った。少なくともまだ今ではなかった。もう少し待ってほしい。私が人生に疲れきるまで。ボロボロになって床を手でタップしながら「ギブ!」と大声で叫ぶまで。人間ひとりでは何も出来ないと解りきるまで。佐藤くんか、佐藤くん以外のまだ見ぬ誰かでもいい、誰かが「君の子供の父親になりたい」と挙手してくれるまで。
はたしてそんな時が来るかわからなかった。来ても来なくても変わりないのかもしれない。私は私をやっていくだけで精一杯で、そんな選択をする勇気も気力も一生持てないままかもしれない。それでもやっていくしかない。さも常識人です、みたいな顔をして、何もわかっていない猫を避妊に連れて行ったり、不注意で妊娠したという痛恨のミス、それに伴う堕胎という体験を背負ってやっていかなければならない。自分は罪深い。人間は誰しも業が深い。いけるか?いけへんかも。いや、いくしかあれへん。やるのや。やっていくのや。
そういう事を考えながら、私は暗い夢の中を終わりなく落下していった。泣きながら。なにものかに懺悔しながら。

いらないと言ったのに、佐藤くんは病院に着いてきてしまった。私はひとりで居た方が強く在れるのに。彼はずっと顔面蒼白で、彼の方がよっぽど手術前の人間のようだった。 待合で、「大丈夫やから」と彼の手を握ると、「ハイ」と、蒼白のまま握り返して来た。 私は手術用の寝巻きのような服に着替えて、誘導されるがまま、手術台に乗った。「麻酔しますねー、ちょっとチクッとしますよー」と、年配の看護師が優しく言って、注射針が刺さった。「リラックスすればしただけ、ちゃんと効くからね」と言われる。
リラックスすればしただけちゃんと効く。
指示通りゆっくり深呼吸して、その文言を頭の中で繰り返しているうちにぼうっとしてきた。 「大丈夫よー」という看護師の声。
大丈夫、大丈夫。よくわからないが、私は大丈夫だ。
これが終わればまた私は私ひとりの個体として生きていける。ノンちゃんの微睡む部屋へ帰って、コーヒーをいれて飲むのだ。また佐藤くんと映画でも見に行こう。一緒にご飯を食べよう。絶食しているために、シクシクと胃が痛かった。
どうして私は子供を堕ろす事にしたのだろう? それはまだ諦め切れないからです。
私はなにか、神に近いなにものかに告解するような気分になっていた。
諦め切れないのです、自分の事を。自分を変えてしまう事に耐えられないのです。失望したくないのです。これからも一生懸命戦う事を誓いますので、というかそれしかできないので、どうか私の決断を、決定を、お赦しください。私はまだ子供を産む女として生きたくないのです、人間として生きたいのです、できることならば。私はもしかしたら本当は母に会いたかったのかもしれない。母に会って話してみたかったから、慌てて彼女の胎内に発生したのかもしれない。おっとり屋の母は、私のようにせっかちではなかったから、考えて考えて私を産んでみる事にしたのだ。会ってみないとわからなかったから。
私の子供はどうだろう?わからない。まだ会っていないし、会うとしてももっと先になりそうだと思う。彼か彼女かわからないが、その存在が期待しているものについて思いを馳せる。妊娠なんてこんなのただの現象なのにね。ただの現象に数日間動揺して、注射で静かにならんとしている自分がここにいる。

視界の端をコウノトリが飛んでいく。冷たい空気をきって、飛び去っていく。巣へ還っていく。
さようなら、小さい人間。君はこれから私の人生において、手を替え品を替え、姿を変え声を変えて立ち現れるだろう。私に決定を促すだろう。泣かせ、喜ばせるだろう。私をなにものかに懺悔させるだろう。コーヒーを飲むのを留まらせるだろう。なにものかに祈らせるだろう。その時までさようなら、またね、また会おうね。おやすみなさい。

石の女

村の外れには井戸があり、井戸の横には小さな家があった。 家には「於しな」という女が住んでいた。
於しなの父は村でも名の知れた医師で、この家は父の亡くなったのち於しなの物となった。
於しなは井戸の横のその家を良く手入れして暮らしていた。

女が井戸を覗き込んでいる。
於しなである。
於しなは暫し井戸の傍に立って中を覗いていたが、慣れた動作で水を組み上げた。
組み上げたものの水面には於しなの顔が映っている。
それほど老いてもおらず、それほど若くもない、痩せた洗い髪の女である。

於しなは自分の頬に手をやり、すっとこめかみまで撫で上げた。
皮膚には張りがなく、手も荒れているものであるからカサカサと音がする。
足先が冷える。
湯を沸かさねばならない。
於しなは汲みたての水を移して家の中へ戻った。

於しなには夫が居た。 亡父と、村の身内達の連れてきた歳若い男である。
於しなと数えで十ほど違う。この夫も医師の家の次男で、寡黙ではあったが気の優しい、実直な男だった。
於しなは夫の事を考える。
夫はいまは隣町の診療所に行っているのだ。 「熱心な事でありますなぁ」と村の老婆などは言う。 わたくしには勿体ないひとです、と於しなはその度実に申し訳なさそうな貌をして答えた。 それは嘘では無かった。

夫婦となって三年ばかり経つ。於しなと夫の間に子供は居ない。 授かりものであるから、気にせぬように、と夫は於しなの目を見て言った。 於しなは頷くほか無かった。
ひとしきり家の事を終えて、於しなは縁側に腰掛けた。この家の縁側は日当たりが良い。 誰も見ていないのをいい事に両足をぶらぶらさせていると、童女の様な気分になる。 亡父は忙しい人であったが、たまに昼餉のあとなどに於しなを膝に乗せて古い煙管を吸っていた。

縁側で陽射しをさんさんと浴びながら、「石女」と於しなは思う。
自分はこの家のひとり娘なのに、わたくしのせいで血が絶える。
そしてわたくしはあの人の子が欲しい。ややが欲しい。夫にわたくしと夫のややを抱かせたい。
於しなは赤子の手について思う。 この前、村の女に抱かせて貰ったのだ。 赤子は不安げに於しなを見たが、ぐずりもせずその左手でぴとりと彼女の頬に触った。 少し汗ばんで、熱いが柔らかな手であった。

わたくしは石。
何も成さない石。
路傍の。
ゆっくりと土に沈んでいく石。
ひんやりとしてなにも産まぬ石の。

…………

石の女に用のある男が居るだろうか。 あの人は若い。わたくしよりずっと若い。 凛と背すじの伸びた、肌の美しい男。 屹度もっと若いお嬢さんの横に居た方が良いのだ。 もっと艶やかな髪のーーーもっと弾けるように笑うーーーわたくしがもう持ち得ぬ輝きを持ったーーー
暮れまでに兆しも無いのなら一度離縁を切り出そうと於しなは思う。どちらかが口に出してしまえば、なんとなく行く末は決まる物だ。
夫の睫毛の長さを思う。行燈を灯すと、顔に睫毛の影が落ちるのだ。

「於しなさん」
と呼ばれてふと顔を上げた。夫が立っていた。 「あら」と言って夫の荷物を持つ。 「お帰りなさいまし。仰ったよりお早いわ」 「向こうの先生が感冒になった。医者の不養生とはこのことだと皆笑っていたが」

「優作さん」
「はい」
於しなは目を細めて夫を見た。疲れているのだろう、うっすら隈が浮かび、顎の横下に髭の剃り残しが有った。 「卵を頂きましたの。おじやにでも致しましょうか」 「うん。うん。食べたら少し寝るよ」 荷物と、縁側からひょいと上がる夫の草履を持って於しなは家の中へ戻った。

石ではない、わたくしはまだ石ではない、と草履を揃えながら彼女は思う。
わたくしは石ではないーーー
三和土は於しなの瞳から零れたものを吸って黒い染みを作り、間もなく乾いた。

贈り物

昔昔、ある村落にそれは愛らしい少女がいた。
彼女は大きな農家の一人娘だった。
栗色の巻き髪に、薔薇色の頬をした心優しい娘である。
村人や、家の使用人たちは彼女の事を親しみを込めて「お嬢様」と読んでいた。

ある日、家に新しい使用人が雇われた。
それは痩せて顔色の悪いゴブリンの青年だった。
お嬢様の父が、村の巡回の際に拾ってきたという。

ゴブリンなど気味が悪いと他の使用人たちはいい顔をしなかったが、さりとて追い出すほどの非道な者もいなかったので、ゴブリンの青年は間もなくこの農家で下働きとして勤め出した。

彼は大変働き者だった。
確かにこの地方のゴブリンならではの無学さと常識のなさ、不器用さで他の使用人に嘲られる事も度々だったが、それでも彼は吃音気味の口調で挨拶する事を覚え、むしって良い植物とそうでない植物を覚え、屋敷の裏の、急勾配な転びやすい坂をどうしたら転ばずに進む事ができるか、考え考えよく働いた。

とある晴れた日、ゴブリンはお嬢様が牧場の隅の生垣を覗き込んでいるのを見かける。
どうしたのかゴブリンがいつもの吃りがちな口調で訊ねると、お嬢様は「子猫がいるの。ほらあそこ」とニコニコして指さした。

生垣の中にはこっぽりとした空間ができていて、その中にはミャアミャアと鳴く子猫が四匹ほど蠢いていた。目があいたばかりのようである。
お嬢様は手を伸ばしてその中の一匹をそっと撫でた。
「可愛いわ。私、あらゆる毛皮の中で子猫の毛皮が一番好き。ふわふわしていて、触るととても幸せな気持ちになるんですもの」
お嬢様はまだ幼さの残る声でそう言った。夕日が彼女の横顔を照らし、それは一枚の絵画のように見えた。

その日以来、ゴブリンの青年はこのお嬢様に大変な尊敬と恋慕の情を抱いてしまった。
あの人間の可愛い女の子に、なにか贈り物をしたいと彼は思った。
なにかーーー彼女がまた微笑んでくれるものをーーー。

それからしばらくして、他の使用人たちはゴブリンの青年が昼間の仕事の他に何かをやっている事に気づくが、そんなに関心を示す事はしなかった。
ゴブリンなどに構う理由は無かったし、みんななんやかんやと忙しかった。

生垣の子猫はいつの間にか消えていた。お嬢様は残念そうにしたが、大方、人間に気づかれた事に機嫌を悪くした母猫がどこか別の隠れ家へ運んでいってしまったのだろうとお嬢様の父は慰めた。

とある夏間近の日。
その日はお嬢様の誕生日で、屋敷では簡素だが温もりのあるパーティが開かれた。
夜になって庭へ散歩に出たお嬢様は、ゴブリンの青年が何かを抱えてモジモジとこちらを伺っているのに気づいた。

「どうしたの?」
あの、あの、ーーー贈り物があって、と、ゴブリンは吃りがちに言った。
暗がりでゴブリンが差し出した物は、一見織物か何かに見えた。
「嬉しいわ、ありがとう。これはなぁに?これは……」
ゴブリンから渡された物に触れたお嬢様は、とても柔らかいものだわ、と思い、それを広げてまじまじと眺めた。

はたしてそれは沢山の子猫の毛皮を剥いで作られた小さなマントだった。一部には、あの生垣で見た縞柄の模様まであった。
お嬢様はそれに気づいた時、数秒間息を飲み、電流を流されたように毛皮のマントを投げ捨てた。そしてそれからひどく長い悲鳴を上げた。
父や使用人達が何事かと集まってくるのに時間はかからなかった。

ゴブリンの青年は慌てふためきながら、これは百匹の子猫を使って大変丁寧に作った物である事、とても手間と時間がかかったこと、でも子猫がよく生まれる時期だから間に合った事、マントが嫌なら敷物として使えば寝心地も良いと思う、といった事を一生懸命お嬢様に説明した。
お嬢様は話を聞くどころではなく、やがて泣き出して父に付き添われ屋敷に連れて帰られた。

ゴブリンは使用人たちに酷く罵られ、背中を鞭打たれて村を追い出された。
彼にはよくわからない。なぜお嬢様があんなに自分を怖がっていたのか。
こんなに頑張ったのに、なぜ喜んでくれなかったのだろう?
子猫の毛皮は確かに柔らかいし、それを触っている時幸せになると彼女は言っていた。それは嘘だったのだろうか?ーーー

彼にはよくわからない。なぜなら彼はゴブリンだったし、人間と接するのもこの村に来るまで経験の無かった事だから。
彼は痛む背中と共にヨタヨタと歩いて村を出ていった。それ以来彼を見た者はいなかった。

はて、と筆者は考えてしまう。
子猫の毛皮でできたマントーーーもしくは敷物ーーーなんて筆者も書いていてゾッとするが、だからといってこのゴブリンの青年を責め立てる気にもならないのだ。
彼は彼女が望む物について大変無知で浅薄であった。しかし誰より彼女が喜ぶ物を考え、寝る間も惜しんでそれを作ったことも事実である。
哀れな若いゴブリン。無論、いっとう憐れむべきは訳もわからず摘み取られた子猫達とその親猫達なのだがーーー。

お嬢様はその後、屋敷の庭に石を積み、子猫達を悼むために小さな墓を作った。
彼女は自ら育てた薔薇を小さな手でその墓に供えたらしいが、私は寡聞にしてその場所を知らない。

オオサンショウウオの冒険

皆さんご存知でしょうが、京都には鴨川という大きな川が流れています。

そこには多種多様な生き物が住んでいて、オオサンショウウオ、というちょっと不気味だけれど愛嬌のある姿の者も暮らしているのです。

鴨川のある場所に、一匹のオオサンショウウオがおりました。
彼は生まれてこの方、他のオオサンショウウオを見た事がありません。
筆者はオオサンショウウオの生態にあまり詳しくないのですが、大方、小さい頃に親や兄弟ともはぐれてしまったのでしょう。

オオサンショウウオはある日「旅に出よう」と思いました。
仲間を探しに行こうと思いついたのです。
たいがいのオオサンショウウオというのは寂しがり屋な生き物ですから、彼もそういう、本能的な悲しみに取り憑かれたのでしょう。

彼はゆっくりと泳ぎだしました。
途中で、小魚の群れに会いましたので、「おーい、誰か、ぼくの仲間を知らないかい」と訊ねました。
「知らないよう」「ぼくも知らない」「わたしも知らない」
小魚たちは口々に答えて、行ってしまいました。

小エビさんにも会いました。
「ぼくに似た、ぼくの仲間を知らない?」オオサンショウウオは問いかけましたが、小エビさんは長い髭を撫でながら「さあ、見なかったねえ」と言いました。

オオサンショウウオはもっとずっと頑張って、大変長い間川の中を泳ぎました。
彼らはそんなに早く泳げる種族ではありませんから、長い距離を行こうと思うと、それはもう時間がかかるのです。

オオサンショウウオが一生懸命泳いでいる途中には、川辺で酒盛りをしている河童たちもおりました。
彼らは何かというと、ひとけのない時間と場所を見計らって、お酒を飲むのです。
「こんばんは」
「やあやあ、こんばんは」
「ぼくは仲間を探しているんですが、似たひとを見なかったですか」
「さあ、わからないねえ。台風の日なんかには、何匹か流されていくのを見かけるけれども」
それよりどうだい、君も飲んでいかんかね、と、陽気な河童の一匹が杯を差し出しましたが、あいにくオオサンショウウオは下戸でしたので、丁重にお断りして、再び川の中へ潜りました。

「でも、何匹か流されていくって言ってたから、居るには居るんだ」と、オオサンショウウオは思いました。

皆さん、親愛なる読者の皆さん、私はオオサンショウウオの必死な思いを考えると、少し涙が出てくるのです。
どうして神様は、彼に最初から仲間をお与えにならなかったのでしょう。
そうすれば、本当ならば、彼はこんなにもしんどい思いをせずに、安心して暮らせたはずなのです。
水族館のオオサンショウウオたちを見てご覧なさい。みんな積み重なってじっとまどろんだりしています。あれが本来の姿なのです。

オオサンショウウオはそれからも休むことなく泳ぎ続けました。
たまに気まぐれな川の流れに押し戻されて、悲鳴を上げながらひっくり返ることまでありました。

「やれやれ、疲れてしまったな」
オオサンショウウオは一休みすることにして、安全な川の隅っこへ体を寄せました。
しばらく休んでいると、夜の街並みがキラキラと遠くに見えました。
「ずいぶん賑やかなんだなあ」
オオサンショウウオは感心して呟きました。こんなに人間の街に近づくことは中々ありませんでしたから。
そこへ、急に水面からザブンと誰かの足が突入して来ました。
「だあれ」と、オオサンショウウオが水面を見上げると、そこには大きな白鷺が立っていました。

オオサンショウウオは知らない事でしたが、彼は大層やんちゃな白鷺で、あちこち飛び回るのは勿論のこと、たまに先斗町の真ん中で悠然としていたり、四条から三条へ行くまでの道路で人間の車を立ち往生させてタクシー運転手をカンカンに怒らせたりなんかしているのです。

「ああ、ごめんよ、気づかなかった!踏んでしまったかしら」
「ううん、大丈夫」
オオサンショウウオはプカリと川面に顔を出して答えました。
「君、ずいぶん大っきい鳥だねえ。ぼくの仲間を見なかった?」
白鷺はしばし考えこみました。
彼ぐらい色んなことをやっていると、ひとつの事柄を思い出すのは結構時間がかかるものなのです。
「うーん、見たのは見たけれど、どこにいるかはわからないなあ」
白鷺は言いました。
「も少し泳いでみたらどうかな。居るところにはいるよ」
「わかった。ありがとう」
オオサンショウウオはお礼を言って、再び泳ぎ出しました。

居るところにはいる、居るところにはいる……。彼は頭の中で白鷺の言葉を繰り返しました。
それはもうとても長いこと、彼は泳ぎました。
やがて朝日がさしてきて、鴨川はキラキラと輝きました。

皆さん、夜明けの鴨川というのは美しいものです。これは嘘ではありません。
もし、他の町の人が京都にお越しになることがあれば、そして夜更かしが得意な方であるならば、ホテルや旅館の窓なんかから、夜明けの鴨川を眺めてみることをおすすめします。

眩しいなあ、と、オオサンショウウオは小さな目をシパシパさせて、大きな橋の影へ入りました。
するとそこには大変魅惑的な窪みがあったので、オオサンショウウオは非常に喜んで、そこへピッタリと体を添わせました。
窪みは思った通り、とても居心地の良いものでしたので、彼は少し眠る事にしました。
「起きたらまた探そう」

まどろむ彼に、「おや、先客がいるぞ」と、誰かの声が聞こえましたが、眠くて目を開けることができません。

「ねえ君、ぼくも一緒にそこで寝ていいだろうか」
「いいとも、いいとも」
気の良いオオサンショウウオは、少し身を譲って、誰かさんを入れてやりました。

誰かさんとは何者でしょうか?
皆さん、驚くべきことに、それはもう一匹のオオサンショウウオでした。
ここまで真剣に泳いできた方のオオサンショウウオは「なんだかずいぶんぼくに似ているひとだなあ」とだけ思って、安心して眠りました。
もう片方のオオサンショウウオも、窪みに満足して眠っています。

双方が目覚めた時、孤独だったオオサンショウウオが大変喜んだことはここに書くまでもありませんが、書かないと読者の皆さんはホッとできないでしょうから、こうして書いておきます。
一匹と一匹のオオサンショウウオは、それはもう仲良くなりました。
あとからやってきたオオサンショウウオは、他の仲間も紹介してくれたりして、たったひとりだったオオサンショウウオは、やがて沢山の友達に恵まれるようになるのでした。

もし、鴨川で何匹かのオオサンショウウオがまったりと泳いでいたならば、それは彼らかもしれません。



このお話を書き終わるまでに、筆者のコーヒーはすっかり冷めてしまいました。またいれなおすこととしましょう。

作者がどうしてこのお話を知っているかというと、鴨川の近くに住む妖怪の一人に聞いたのです。
鴨川の近くには本当に色んな者たちが居ますから、そういう物知りな妖怪も居るのです。

「まあ、頑張れば、だいたいの孤独というのはどうにかなるものだよ」
彼は鴨川のほとりで煙草をふかしながら、そういう風に言って、このお話を語り終えたのでした。

⑥(最終章)・⑦(エピローグ)

6.

翌日、エリザベートは僅かな近衛兵を連れてフォンセへ入国した。
ラストリア城はフォンセのほぼ中央に位置する。
魔弾を警戒して幾重にも魔術の盾を施したが、敵の気配は無かった。

一室に、父と母が居た。
王妃がにっこりとエリザベートに笑いかける。
「きっと来ると思っていました」

「親子水入らずの再会よ。ギュスターヴ、人払いを」朗らかにアナスタシア妃が言う。
「はっ!」
途端、ギュスターヴはアナスタシアを見てから抜刀し、瞬く間にエリザベート付き近衛兵三名を切り捨てた。

「ギュスターヴ!何をする!!」
ギュスターヴの瞳には濁りがない。正気で仲間を葬ったのだ。

「裏切ったのかギュスターヴ」
「裏切るもなにも、ギュスターヴは元々わたくし付きの近衛兵です。ライトニングの家はわたくしの生家から連れてきたのよ。忘れたの?」
優雅な声でアナスタシアは言った。
ギュスターヴはエリザベートの視線には何も言わず、刀を持ち直した。

「お前、お前何をしているーーー。これは何だーーー」
父王は困惑と恐怖をあらわにしている。
「うるさいわ」
アナスタシアはポケットから回転式の小銃を取り出し、クランツ王に向けた。
「母上!!」

「お前、何をーーー」
「さようなら、あなた」
母が天使の微笑みのまま発砲すると、父は額に穴を穿たれ、あっけなく床に倒れ伏した。
「母上ーーー」
「みんな邪魔なのよ。どいつもこいつも役に立たない、使えないわ。領土を汚染して魔族を焚き付けてもディーツは潰せなかった。フォンセの魔王にも魔力を貸し与えたのにみっともなく敗れた」
アナスタシアは迷いのない動作で今度はエリザベートに照準を合わせた。
エリザベート、手を上げて」
エリザベートは刀から手を離し、両手を肩の辺りまで上げる。

「母上、魔弾の射手は貴女ですね」
「そうよ」

アナスタシアは父だったものを見やった。
「わたくし、射撃は大好きよ。この人と猟に行くたび下手なフリしてあげたらこの人は喜んでたけど」
つまんない男よね、とエリザベートににっこりした。
「母上ーーー、なぜこの様な事を」
「なぜって、面白いからよ。面白くするためよ」
アナスタシアはキョトンとした。
「意味がわからない。乱心召されたか」
引き金が引かれ、銃弾がエリザベートの喉元を貫かんとしたが、エリザベートの指輪の最後の金剛石が砕け、エリザベートは魔術のバリアに守られた。

弾は跳ね返されて、遠くの床を砕いた。

エリザベート、口を慎みなさい」
一瞬無表情になった母は、また口角を上げて優しげな微笑みを作った。
「その指輪、お前を探知する為に着けさせたのに、あの魔女が作り替えたのね。リーナ・リーナ・パスカル。つくづく忌々しいわ」
「質問にお答え願いたい」
ふぅー、とため息を吐いて、アナスタシア王妃は銃口を上に向けた。
「わたくし、一国の王妃でいるのに飽き飽きしてたの。良き妻良き母を演じ続けて老いていくなんてつまらない。フォンセにディーツを落とさせて、新しい帝国を作りたかった。世界地図を描き換えさせるのよ。王妃なんてつまらない。どうせなら帝王になりたい。お前もつまらないわ。どうして?どうして言う通りに大人しくしてくれないの」
お前は、いつもそう……、と、言葉を紡ぐ間、母の顔はエリザベートにとって見知らぬ悪鬼の様に見えた。

「ちゃんと撃ったわ。わたくしの魔弾がそれることは無いの。なのにお前は生き返った。お前は本当にエリザベートなの?」

本当にエリザベートなのか、それはエリザベート自身もわからない事だった。
「私はーーー、昔のエリザベートでは無いかもしれません。神に魅入られたのです」
魅入られた。

そう、口に出してみるとそれは予想外にしっくりと来た。

首を吊ったあの瞬間、自分は神に魅入られたのだ。そして疲弊するエリザベートの魂を哀れんだ神に力を与えられ、ここまで来た。

「なにしろ昔より強くなりましたので」

不思議と心は平静だった。頭の中はかつてなく静まり返り、クリアな視界は再び銃を構える母の姿を見ている。
「アランはかわいいから生かしておく。お前は昔から可愛くないわ。可愛くないモノは要らない」
後ろには軍刀を構えたままのギュスターヴが居る。
助けを呼ぶ事もできず、エリザベートは孤立無援で両手を上げている状態だった。

ーーーしかしそんな事はどうでもよいーーー。
にわかにエリザベートの足元から風と共に魔力が吹き上がった。
エリザベート姫!妙な事はなさるな!!」
叫ぶギュスターヴに対して
「やだね」
と返すと、足元から噴出する魔力によってエリザベートの四方に四つの盾が出現し、彼女は上げっぱなしだった手をしれっと剣の柄にかけて抜刀した。
ーーーそんなことはどうでもよいのだ。火力には更に強い火力で対抗すれば良いだけの話ーーー!!

「母上、ご存知でしょうが、魔弾の射手は限られた数しか撃てないと相場が決まっております。残弾は何発でしょうか?」

うるさいわーーー、この城ごと吹っ飛ばしてあげる、と言うや否や、アナスタシアは頭上の空間に亀裂を入れ、大砲を呼んだ。
それはかつてアダン王の使った方法ではあったが、「貸し与えた」と言っていた通り、アナスタシア本人のそれは比較にならないほどの邪気と圧を持っていた

「来い!」
ギュスターヴが斬りかかってくる気配に対応してエリザベートは大砲に背を向けた。
四枚の盾が全て背後に移動し、大砲の衝撃からエリザベートを匿おうとする。
大砲が火を吹く前に、エリザベートはギュスターヴと切り結んだ。
ギュスターヴの一太刀はエリザベートの威力に跳ね返され、彼の右手はビリビリと痛んだ。

「姫、自分はーーー」
一時ではありますが、貴女にお仕えできて光栄でした。

彼はそう言うと、エリザベートを押しのけて前方へ跳んで出た。
「ギュスターヴーーー……」
ギュスターヴはそのまま万力を込めてアナスタシア王妃に斬撃を加えた。
「このッーーー」
王妃は手に持った小銃でギュスターヴを狙撃したが、その弾がギュスターヴの胸を貫くと共に、エリザベートはアナスタシアの側面に回り、真っ直ぐに剣を構えた。

「ギュスターヴ、そなたの忠義、見届けた。ーーー十割だ」
大砲がこちらを向き、衝撃が放たれたが、それはエリザベートの一刀によって彼女を中心に真っ二つに割れ、城の部屋の左右を木っ端微塵にした。

「おのれーーー!!」

「リーナ・リーナ!!」エリザベート姫の呼びかけに応えて、姫の背後から紫の魔女が現れた。
「リーナ!アナスタシア王妃の乱行、記録致したか!?」
「はい、しかとこの手の術式に」

リーナの身の周囲に、ついさっきまでのアナスタシアの残像が幾つもの画面として映し出され、古いフィルムの様にザラザラとノイズ混じりに展開されていた。

「そんなもの、最初から無かった事にすればいいだけよ」
アナスタシアは片手を上げて、大砲に魔力を注いだ。
大砲からは無数の錆びた手が伸び出し、見るもおぞましい様相となったが、エリザベートは決して怯まなかった。
一弾が放たれる。

「姫君、いくわよーーー」
「おうよ!!」

背後からリーナ・リーナが大規模な術式を広げた。
それはエリザベートの眼前に巨大な鏡となって広がり、鏡面にアナスタシア王妃と彼女の魔術を映した。
「なにっーーー」

一瞬、全ての時が止まったかの様な静けさが辺りを包み込んだ。
巨大な一撃は鏡の一ミリ前で静止し、それからそれらの衝撃はくるりと像を反転させ、王妃の元へそっくりそのまま返された。

王妃と共に城壁が粉砕された。が、まだ母は生きている。魔力の気配がする。
エリザベートは駆け出し、落ちゆく王妃の胸を見事、刀で刺し貫いた。

「御免」
ーーー十二割ーーー。
そうエリザベート姫は呟いて、全身から魔術式を放った。その一部は姫の背中に眩い光の翼となって羽ばたき、またその一部は刀剣から惜しげも無く放たれて、王妃の魔力と生命を完全に焼き切った。
「ーーー母上、ごきげんようーーー」
母の血しぶきを受けながら、エリザベートは悲しげに言って、やがてアナスタシアの遺体の傍らにふわりと着地した。

「姫君!」
背後からリーナに呼びかけられて、エリザベートはやっと刀を鞘に納めた。

「疲れた」

ーーーメイド長の、キャラメルフラペチーノが飲みたいーーー。
空を見上げて、姫はただそれだけを思った。

「アランに、父上と母上を会わせる事、叶わなかったな……」
「アンタがいるわ」

大丈夫、アンタがいる……、帰りましょうーーー。
エリザベートと、エリザベートの手を握って言うリーナ・リーナの肩に、ゆっくりと雨が降り始めていた。

7.(エピローグ)

彼女らは城へ帰った。
王妃の暴虐とその末路はリーナ・リーナ・パスカルと、リーナの弟子のエル・シュタイン他の魔術師達によって正史として世界に報じられた。

そして今ーーー。

「うん、美味い」
飛行艇の中でエリザベートはキャラメルフラペチーノを吸っている。
キャラメルフラペチーノに刺さっている緑色の細い棒状の物は、名前を「ストロー」といって、これもエリザベート姫の発案である。

「魔術で羽など生やさなくともこの方がラクで良い」
「お気に召しましたか」
飛行艇の中にはポーリシュの王子と、アラン王子、龍王などが揃って空の景色を満喫している。
「無論だ。科学技術は素晴らしい。この世界の魔術と合わせれば、より素晴らしい。この世に、つまらない事などあるものか」
エリザベートの言葉にポーリシュのパトリック王子は首を傾げる仕草を見せたが、柔和な表情のまま
「さて、次はどこをどうするおつもりでしたっけ」
と問うた。

「次はなーーー」
エリザベートは広げられた世界地図を前に楽しげにペンを手に取った。



これでこの物語は一旦おしまいである。
エリザベートは女王として即位し、偉人としても名を残すのであったが、それはずっと先の話である。
エリザベートの事を話す人々は後世まで彼女の事を「激つよの魔法少女」と呼んだとか呼ばなかったとかーーー。





special thanks,北窓君

アラン君の日記④

いきなり襲われてびっくりしたけど、姉さまの的確な指示で怪我人は少なかったみたいだ。
さすが姉さま!

フォンセの王様が単身乗り込んでくるなんて、もうむちゃくちゃだけど、これが戦争ってものなのかもしれないね。
それにしても姉さまの軍神みたいな戦いはかっこよすぎた!目からハートが出そう。

アードルング様には危ないからついてこないように言われたけど、僕もなにか役に立ちたくてつい……。

次回!
最終回みたいな気がするけど作者が疲れてきてるから更新されないかもしれない!乞うご期待☆